今までになかった面白いサイトが出現した - 大石佳能子さん

 いきなり、個人的な感想で恐縮だが、今までになかった面白いサイトが出現した、と思う。このサイトは、表面的にとらえるとDPCというきわめて専門的な病院経営指標の比較サイトで、それこそ医療関係者、しかも病院関係者、その中でも経営に携わっている者にしか関係がないように思える。一般の方は、DPCという制度名すら聞いたことはないだろう。

 しかし、DPCは病院の診療報酬算定のための制度ではあるが、実は全国の急性期病院が統一したフォーマットで診療実績を報告するようになった点に、社会的にも今までにはない、画期的な意味合いがある。これにより、結果としてブラックボックスだった病院の実績が、オープンになったのである。また、今回このサイトができたことにより、病院経営の専門家しか興味を持たず、読みこなすことも難しかったDPCデータが、誰にでも理解できるようになり、格段にその有用性が高まった。このサイトにより、病院の実力の可視化が一気に進む可能性もある。

 このサイトに公表される情報から読みとれるのは、たとえば下記のようなことである。

  • 患者数の多い病院の方が、医師の経験値が高く、ノウハウが蓄積されている傾向にある。良い医療を提供すれば、中長期的には地域や専門家の間で評判が高まり、患者が集まるという好循環が発生しうる。(診断群別の「医療圏シェア」の指標)
  • 在院日数の短い病院のほうが、質の高い医療が効率的に提供されている可能性がある。診断や治療方法が適切で、医療ミスが少なく、回復も早い。(平均在院日数を患者構成で調整した「在院日数指標」の指標)

 これらの情報は病院経営者だけでなく、患者さん、地域の医療計画を担う役所の担当者、病院に融資する銀行担当者、患者さんを紹介する地域の開業医等にも役立つ。全ての人が、「正しい事実」に基づいて病院を評価、選択することができるようになるのだ。

 DPCのデータだけでは、病院の本当の「治療実力」は分からない、という批判はあるだろう。しかし、こうやって情報が開示され、比較されることにより、病院側には「もっと正確で十分な情報を出したい」という欲求が高まることであろう。

 情報が公開されることにより、病院に勤務する医師も、自らの立ち位置を理解することができ、更に研鑽に励むことができるだろう。お互い研鑽し、技術を向上させる医療現場に良い医師は集まる。いろいろな意味で、今後情報公開をしない病院は、生き残れない、と言っても過言ではない。病院にはこのことに気がついて、今後積極的に情報公開することを期待したい。

 ハーバード大学における経営学の大家マイケルポーター教授が先日上梓し、日本でも訳本がでた「医療戦略の本質」という本にも、良い医療が提供されるためには、「診療実績による正しい競争」が必須であると書かれてる。

 以下、引用すると「診療実績に基づく競争をするためには、実績を評価して広く公表することが必要になる。(中略)うまく機能している市場では、情報が競争の本質になる。しかし、医療では価値を向上させる競争を支えるのに必要となる情報がほとんどないか、隠されている。(中略)殆どの医師は自分の実績が平均的なのか、平均以上なのか、以下なのか知るための客観的証拠を持っていない。自分が平均以下であるという情報があれば、学び、改善しようとするインセンティブがわく。」とある。

 このサイトの創設管理者であるケアレビューの加藤社長は、ポーター教授に触発されて、サイト開発を思い立ったそうである。ポーター教授がいう「正しい競争」はアメリカでは実現していない。最近元気がない日本の医療制度ではあるが、このようなサイトが一つの起爆材となって、各病院が積極的に情報公開をはかることにより、再び世界をリードするようになってほしいと思う。

(2010年2月)

大石佳能子

大石 佳能子
株式会社メディヴァ 代表取締役社長
http://www.mediva.co.jp/

大阪府箕面市出身。幼少時代をニューヨークで過ごす。大阪大学法学部卒、ハーバードビジネススクールMBA。マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、株式会社メディヴァを設立。
厚生労働省「これからの医療経営の在り方に関する検討会」、「社会保険審議会福祉部会」、経済産業省「日本版PHRを活用した新たな健康サービス研究会」委員等。日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2007」受賞。共著に「消費者最優先企業の時代」「特定保健指導・メタボ予防成功のために」等。