患者数から見えてくること

断定することはできませんが、入院患者数は、急性期病院の治療能力を反映している可能性があります。
⇒ 仮説:入院患者数が多いほど、治療能力が高い。

 

指標の定義・計算方法

月平均患者数(人)=調査期間中の退院患者数÷調査月数

医療圏シェア(%)=その病院の患者数÷同一医療圏内の病院の患者数合計

  • その地域で入院治療を受けた患者のうち、何パーセントがこの病院で治療を受けたかが反映される指標です。
  • 医療圏シェアの算出には、DPC参加病院以外の病院の患者数は含まれません。

患者数の意味する(可能性がある)こと

日本の国民皆保険制度では、「フリーアクセス」と呼ばれる基本原則があるため、患者は治療を受ける病院を自由に選択することができます。一方で、全国一律の診療報酬制度があるため、どの病院で治療を受けても、同じ病気を同じ方法で治療すれば、費用が大きく異なることはありません。同じ費用で質に差があれば、質の高い病院(治療能力の高い病院)に患者が集中するのは当然の市場原理です。

一方で、一般の方には病院の治療能力などわからないため、その他の要因(立地条件、建物の快適さ、職員の接遇能力など)に影響を受けているとの指摘も完全に否定することはできません。しかし、最近の医療制度では、急性期病院を受診する前にかかりつけの診療所などの「紹介状」を持ってくることが推奨されています。すなわち、地域の医療事情をよく知っている開業医のアドバイスを聞き、入院治療を受ける病院を選択している人が、相当な割合を占めるようになっているのです。

また、患者数が多いということは、医師の能力向上にも必須の要件です。多くの症例を経験することで医師個人の能力を高めることができるので、そのような病院には優秀でやる気のある医師が集まります。たくさんの患者数が優秀な医師を集め、医師の高い能力がまたたくさんの患者を集めるという相互作用が働いているのです。

地域における「クチコミ」などの素人判断に影響を受ける外来診療とは異なり、入院治療の場合には、専門家である医師集団の日常的な行動に基づく相互監視システムができつつあると考えられるのではないでしょうか。

病院全体で見るよりも細分化された情報が重要

では、患者数の多い大規模な総合病院に行けば安心なのでしょうか?

ここで重要なポイントは、入院を要するような治療行為は高度に専門分化されているため、一人の医師がすべての病気を治療できるわけではないということです。医師が働く病院を選択するのも、そのように細分化された領域で目標となるような先輩医師がいるかどうかが重要です。

そのため、病院の治療能力は、病院全体でとらえるのではなく、診療科目や特定の病気の種類ごとに判断することが求められます。このサイトでは、そのような細分化された情報を比較することが重要だと考え、各病院の患者数を18の主要診断群(MDC)別に比較できるようにしているので、病院別ページで患者数を表示するとその病院の特徴を把握することができます。

たとえば、20以上の診療科を有するような総合病院では、MDC別の患者数は以下のように表示されます。多くの領域での治療実績があることがわかります。

総合病院の患者数の表示例

(*画像をクリックすると拡大表示されます)

一方で、専門特化した病院の患者数は、次のように表示されます。特定の領域だけの治療実績が突出していることがわかります。

  • 消化器専門病院の例

  • 脳神経外科専門病院の例

  • 乳がん専門病院の例

 

(*画像をクリックすると拡大表示されます)

病院内の患者数を医療圏シェアで比較する

先ほどの総合病院の患者数では、消化器系の患者数がもっとも多く、循環器系がそれに続き、内分泌系の患者数はそれほど多くないと表示されています。しかし、この病院は消化器系の治療能力が高く、内分泌系はそれほどでもないと考えるのは誤りです。

日本人がかかる疾患構成は消化器系の割合がもっとも高いため、多くの病院で消化器系の患者数が最大になっています。そこで、その母数の格差を補正する上で「医療圏シェア」という指標が参考になります。

先ほどの総合病院のグラフ表示を、患者数から医療圏シェアに表示を変更させると、まったく違ったグラフの形になりました。それによると、消化器系のシェアはそれほど高くはありませんが、内分泌系や循環器系のシェアが非常に高く、この地域における優位性がありそうだと判断できるのです。

  • ある総合病院の患者数

  • 同じ病院の医療圏シェア

 

(*画像をクリックすると拡大表示されます)

なお、医療圏シェアは当然ながら、同じ医療圏内の競合病院の数によって変わります。そのため、別の医療圏の病院を医療圏シェアで比較することは適当ではありません。

MDC分類よりも細かく分類できないのか?

現在のところMDCは18分類に分かれていますが、たとえば、消化器系疾患などの分類では患者数が多すぎるため、より細かく臓器別や傷病別(胃がん、大腸がんなど)に患者数を把握できるほうが望ましいのは当然です。

DPCの元データは詳細な傷病別分類が行われているため、理論的には傷病別に詳しく比較することも可能です。また、DPCデータには主治医コードも割り当てられているので、医師単位で実績を比較することさえもできます。厚生労働省にはすべてのDPC参加病院の詳細なデータが集まっているので、省内ではすでにかなり詳細な分析が行われているのかもしれません。

しかし、残念ながら現在のところ、MDC分類よりも細かい単位での信頼性の高い網羅性のある情報は厚生労働省から公表されておらず、私たちが入手できる情報には限界があります。将来的にはより詳細な情報の公開が望まれるところです。


加藤良平
株式会社ケアレビュー 代表取締役
一橋大学非常勤講師(医療産業論)