平均在院日数から見えてくること

断定することはできませんが、平均在院日数は、急性期病院の治療能力を反映している可能性があります。
⇒ 仮説:平均在院日数が短いほど、治療能力が高い。

指標の定義・計算方法

平均在院日数(日)=対象となる退院患者の平均在院日数(入院日と退院日を含む)

  • 対象患者が平均して何日間で退院することができたかが反映される指標です。

患者構成指標(全国平均=1)
=[当病院のDPC毎の平均在院日数を全国平均に合わせた上で再計算したMDC別平均在院日数]
÷[全国平均のMDC別平均在院日数]

  • 数値が大きいほど、治療に長期間を要する傷病の患者の構成割合が多いことを表します。

在院日数指標(全国平均=1)
=[全国平均のMDC別平均在院日数]
÷[当病院のDPC毎の患者構成を全国平均に合わせて再計算したMDC別平均在院日数]

  • 数値が大きいほど、同じ傷病を治療する場合の平均在院日数が短いことを表します。

平均在院日数の意味する(可能性がある)こと

従来の日本の健康保険制度では、「出来高払い」と呼ばれる制度が中心であったため、入院日数を短くすることに対する病院側の経済的なインセンティブはありませんでした。しかし、DPC制度(入院医療費の包括支払い制度)の導入により、必要以上に患者が長期間入院すると病院の収入が減るため、平均在院日数をいかに短縮するかが、急性期病院の経営を左右する大きなテーマにもなっています。

ただし、平均在院日数を短くするのは、簡単にできることではありません。入院~治療~回復~退院までの一連のプロセスで考えると、正確な診断と適切な治療方法を選択する能力、できるだけ患者の身体に負担をかけずに手術や治療を行う能力、合併症や医療ミスを防止する教育訓練、患者の回復を助けるリハビリ支援、適切な退院支援や後方受入施設との連携など、どこかのプロセスに問題があると患者は予定通りに退院することができず、その積み重ねが病院の平均在院日数を引き上げてしまいます。

このように考えると、平均在院日数というのは、急性期病院としての総合的な実力が試される指標だと言えるのではないでしょうか。

疾患の構成割合や患者の重篤度によって平均在院日数は影響を受ける

では、単純に平均在院日数が短い病院に行けば安心なのでしょうか?

ここで重要なポイントは、病気の種類や重篤度によって、想定される入院日数は異なるということです。たとえば、白内障の手術などでは1泊2日程度で退院できる方も多いのですが、心臓バイパス手術や胃がんの開腹手術を受けた多くの方は1ヶ月以上の長期入院が必要です。また、同じ原因の病気であっても、患者の基礎体力や合併症の有無などによって、入院治療に要する期間は自ずと異なります。

患者数と同様に、平均在院日数も病院全体の数字ではなく、傷病分類別に判断することが重要です。このサイトでは、各病院の主要診断群別の平均在院日数を表示するとともに、「患者構成指標」や「在院日数指標」も比べることができるようになっています。

厚生労働省では、DPC制度導入の影響調査として、各病院のMDC(主要診断群)別の「平均在院日数」とともに、「患者構成の指標」と「在院日数の指標」を毎年1回算出し、診療報酬制度を検討する専門部会で報告しています。計算式は複雑なので理解するのが難しいかもしれませんが、指数が表している意味を言葉で説明すると以下のようになります。

患者構成指標 ある病院の傷病名(DPC)別の平均在院日数を全国平均の平均在院日数に置き換えて、診断分類(MDC)全体の平均在院日数を再計算すると、そもそも長期間の入院を要する傷病の患者割合が多い病院のほうが、MDC全体の平均在院日数も長くなる。
患者構成指標が1よりも大きい病院は、治療に長期間を要する傷病の患者の割合が平均よりも多いと判断できる。
在院日数指標 ある病院の診断分類(MDC)内の傷病名(DPC)別患者構成割合を全国平均に置き換えて、診断分類(MDC)全体の平均在院日数を再計算すると、各傷病の平均在院日数が短い病院ほど、MDC全体の平均在院日数も短くなる。
在院日数指標は分子分母を逆にして算出しているので、在院日数指標が1よりも大きい病院は、同じ傷病で比べると平均よりも患者を早期に退院させていると判断できる。

そして、病院の治療能力を客観的に判断するには、「在院日数指標」が3つの指標の中では最も適していると考えられます。

たとえば、病院内で臨床実績を測定し、「Quality Indicator 医療の質を測る」という本を毎年出版して自ら情報公開を行っている聖路加国際病院(東京都)では、すべてのMDC別の在院日数指標が「1」を大幅に上回る水準となっています。病院が一丸となって努力している成果が、平均在院日数の短縮という形で実現できていることが客観的に裏付けられています。

聖路加国際病院の在院日数指標

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平均在院日数を病院間で比較する

さらには、平均在院日数を病院間で比較すると、より一層病院の傾向が明らかになります。たとえば、患者数ランキングで神経系のページを開くと次のように表示されます。上位の病院はいずれも毎月100名を大きく上回る素晴らしい治療実績をあげている病院ばかりです。

このリスト上で「平均在院日数」に表示を切り替えると、病院ごとに12.5日~20.1日とばらつきがあることがわかります。ただし、平均在院日数は前述のとおり、そもそもの疾患構成や合併症の有無などによっても左右されるため、そのまま比較するのは適当ではありません。

そこで、「在院日数指標」に表示を切り替えてみます。上位の病院の中では、済生会熊本病院(熊本県)の効率性が圧倒的に高いことがわかります。この病院は、全国の病院に先駆けてクリニカルパスを導入するなど、日本の急性期病院をリードしている存在感のある病院です。高い臨床マネジメント能力によって、安全で効率的な医療が提供されていると考えられます。

  • 神経系患者数ランキング(全国)

  • 平均在院日数に表示切り替え

  • 在院日数指標に表示切り替え

 

平均在院日数が短いのは、身体にもお財布にもやさしい

DPC制度の導入により、入院医療費の包括化が進められています。これは、従来の「出来高払い」制度のように、医師が行う医療行為に応じて医療費が積算されていく計算方法ではなく、傷病の種類ごとに医療費が決められる制度のことです。

ただし、諸外国では傷病名に対して「1入院あたりいくら」と医療費が決められる国が多いのですが、日本で導入されたDPC制度では、今のところ傷病名に対して「1日あたりいくら」という独特の決め方になっています。すなわち、日本のDPC制度では、入院日数が短いほど医療費の負担が少なくてすみます。

少子高齢化が進む日本では、医療費の負担をいかにコントロールしていくのかが、大きな国民的課題となっています。今後は、在院日数指標などを参考として、同じ病気であれば平均在院日数が短い病院を選択するとの価値観が広まれば、国全体の医療費を抑制することにもつながるのではないでしょうか。

また、各市町村や全国健康保険協会、健康保険組合などの保険者も、各病院の平均在院日数に関する情報提供を行うことに、より真剣に取り組んでも良いのではないでしょうか。一般の市場経済では、質が高い商品やサービスの価格が高いのは常識ですが、医療にはこの原則はあてはまりません。平均在院日数が短く、経済的負担が少ない病院を選ぶことは、結果的に患者にとっても、質が高く、安全で適切な治療を受けられる可能性が高まるため、歓迎されることなのです。


加藤良平
株式会社ケアレビュー 代表取締役
一橋大学非常勤講師(医療産業論)